書評『人新生の「資本論」』 第257回

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『新書大賞2021』の大賞受賞作です。というよりも、何よりも内容が素晴らしいです。著者はまだ33才の斎藤幸平さんです。随分とラインマーカーを引きながら読みました。まず「人新生(ひとしんせい)」という用語は初めて目にしました。

地質による時代の区分は大きなものから「代」と呼ばれ、それが「紀」に分かれ、さらに「世」に分かれます。人類の活動は、地球の歴史の中で11,700年程前の「新生代・第四紀・完新生」に始まって、現代まで続いています。ところが産業革命以後の約200年間における森林破壊、気候変動などにより「人新生」という、人類が地球を破壊しつくす次の時代に入っていると言われます。それを「人新生」の時代といいます。

環境破壊といえば、国連が掲げ、各国政府も大企業もでSDG’s(持続可能な開発目標)を推進しています。しかし「SDG’sの行動指針をいくつなぞったところで、気候変動は止められない。SDG’sはアリバイ作りのようなものであり、目下の危機から目を背けさせる効果しかない」とまで言い切ります。

人類の経済活動が全地球を覆ってしまった「人新生」とは、収奪と転嫁を行うための外部が消尽した時代です。環境危機がこれほど深刻化しても、ひたすら経済成長を追い求め、地球を破壊していることに警鐘を鳴らします。

これまでの経済成長を支えてきた大量生産・大量消費そのものを抜本的に見直さなければ地球が破壊されます。世界の富裕層トップ10%が二酸化炭素の半分を排出しているデータもあります。

これに対して、脱成長こそが、ほとんど唯一、資本主義を長期的に安定的に持続する方法であると、社会経済学者の佐伯啓思は述べています。持続可能性と平等こそ、資本主義の危機を乗り越えるために取り戻すべきものであり、その物理的条件が定常型経済とします。

それがマルクスが最晩年に目指した平等で持続可能な脱成長型経済であるとしています。一読をお勧めします。

 

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