税制改正

第302回 インボイス制度に係る令和5年度税制改正 下

令和5年度税制改正の消費税のインボイス制度に関して、今回は「2割特例」についてです。「2割特例」とは、これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合、3年間は仮受消費税の2割だけの納税で済む措置が施されています。

例えば、1千万円の売上で1百万円の仮受消費税があった場合、仮払消費税にかかわらず、仮受消費税の2割の20万円が納税となります。事務負担が大幅に軽減になるはずと税制大綱には書かれていますが、記帳そのものは変わりません。

「対象期間」は、令和5年10月1日から令和8年9月30日まで属する各課税期間となっていますので、個人事業者の場合、令和5年10月1日~12月の申告から令和8年分の申告までの期間となります。「対象者」は、インボイス発行事業者の登録をしなければ、課税事業者にならなかった個人・法人が対象です。

インボイス発行事業者が2割特例の適用を受ける場合、消費税申告書にその旨を付記することになります。簡易課税を適用する場合とは違い、確定申告書に付記するだけで、事前の届出は不要となります。

また、「一括比例配分方式」を適用した場合のように2年間の継続適用の縛りはありません。簡易課税と比べ非常に簡素に適用できることになります。「2割特例」は、税額への影響を直接的に緩和していくことが目的とされているので、簡易課税とは、届出の手続面も全く異なっています。

「2割特例」の適用を受けたインボイス発行事業者が、その翌年度中に簡易課税の適用届出書を提出した場合は、その提出した日の属する課税期間から簡易課税の適用が受けられます。本来は、簡易課税の適用を受ける課税期間の初日の前日までに届出書の提出が必要ですが、期中の届出で簡易課税の適用が可能となっています。

第297回 令和5年度税制改正大綱の特徴

令和4年12月23日「令和5年度税制改正の大綱」が閣議決定されました。今回の特徴は「Ⅱ 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」が加えられていることです。新聞報道でもありましたが「我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する」として「令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する」としています。

法人税については「税率4~4.5%の新たな付加税を課す」とし、「中小企業に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除することとする」としています。中小企業の場合は、課税所得8,000千円までは15%の法人税率ですので、8,000千円×15%=1,200千円の税額です。5,000千円の税額まで残り3,800千円です。課税所得8,000千円超は23.2%の法人税率となりますので、課税所得は3,800千円÷23.2%=16,379千円を足し、計24百万円超の課税所得の場合に、付加税が課せられることになるようです。あくまで今後の方針ですから、政権によって変わることも考えられます。

「Ⅰ 令和5年度税制改正」のうち、「二 資産課税」について、「資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築」の項目が設けられています。『週刊ダイヤモンド』によると、「この言葉が意味するのは、生前贈与を使った相続税の節税は許さない」ということになるとしています。具体的には相続時精算課税制と暦年贈与について見直しとなっています。

暦年贈与については、2024年1月1日以後の贈与から、現在、相続開始前3年以内分が相続税の課税価格に加算されるところが、相続開始前7年以内となります。2023年までは従来通りです。これに対して相続税精算課税制度は、従来はこの制度を使用すると、暦年贈与ができなくなるためあまりお勧めしていませんでした。ところが、今度の改正大綱では、相続税精算課税制度を使用しても、暦年で110万円の基礎控除が設けられています。しかも、この110万円は相続時には持ち戻されないことになっています。暦年贈与の場合は、基礎控除の110万円を含めて持ち戻し計算されるのと対照的です。

第285回 令和4年度税制改正 下

令和4年度税制改正のうち、個人所得税の住宅ローン控除の見直し、住宅取得資金に係る贈与税の非課税措置の見直しについてです。

住宅ローン控除の見直しにいては、①2050年カーボンニュートラルに向けた対応、②会計検査院の指摘への対応が改正の背景にあります。「2050年カーボンニュートラル」とは「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを目標にしています。

中間段階である2030年に目指すべき姿は、省エネでは、新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保されること、再エネでは、新築される戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されることとなっています。これに伴い、令和4・5年入居の場合、認定住宅は5,000万円、ZEH水準省エネ住宅は4,500万円、省エネ基準適合住宅は4,000万円、いずれも満たさない場合は3,000万円の借入金が住宅ローン控除の対象となります。

会計検査院の指摘とは、現状の低金利の下、実際の住宅ローンの借入金利が住宅ローン控除の控除率である1%を下回っているということがあります。そのため、住宅ローンを組む必要がないのにローンを組んで控除を受けている事例があるとのことです。そのために控除率が1%から0.7%に引き下げられます。ただし、控除期間を10年から13年に引き延ばすこととなっています。

住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置が見直されています。適用年度は令和5年12月31日までと2年延長され、非課税限度額は一定の耐震性・省エネ性・バリアフリー性のいずれかの住宅は1,000万円になります。それ以外の住宅は500万円となります。受贈者の年令要件は従来の20才から18才以上に引き下げられています(令和4年4月以降)。金利は世界的には上昇傾向にあります。将来的には、控除率が実態から離れることも考えられます。

第284回 令和4年度税制改正 上

令和4年度税制改正で、中小企業、個人に関係するものは、法人税の賃上げ促進税制と、個人所得税の住宅ローン控除の見直し、住宅取得資金に係る贈与税の非課税措置の見直しぐらいです。

今回は、そのうちの中小企業者等の賃上げ促進税制についてです。中小企業者等とは、資本金1億円以下の法人です。令和4年度税制改正により、令和4年4月1日から令和6年3月31日までに開始する事業年度が対象となります。従来の所得拡大税制は税額控除の控除率が最大で25%でしたが、今回の改正により控除率が最大で40%となり、適用期限が1年延長(令和6年3月31日)となりました。

適用要件は給与総額の増加率が、雇用者全体の給与総額の対前年度増加率1.5%以上であり、控除率を乗ずる対象は、雇用者全体の給与総額の対前年度増加額となり、これは所得拡大税制から変更はありません。ここで注意することは、同族関係者は対象とはなりません。取締役はもちろん、通常の雇用者であっても対象から外れます。

控除率は基本は15%です。給与増加額に15%を乗じます。上乗せ分が、今回の改正により賃上げ率と教育訓練費の2つがあります。まず一つが、雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加していれば、控除率は更に15%プラスされ、30%の控除となります。

もう一つは、教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加していれば、控除率が10%プラスされ、合計で40%の控除率となります。経営力向上要件は廃止されています。従来は、申告書に教育訓練費の明細書の添付が必要とされていましたが、改正後は明細書の保存でOKとなっています。

控除の上限額は当期の法人税額の20%までとなっており、ここは変更ありません。あくまでも税金を納税している会社が対象です。

快適な電子帳簿ライフ 第275回

電子帳簿保存法の改正が、令和4年1月1日から施行されています。今回の改正は、次の3つの区分があります。国税庁のHP資料では、

① はじめませんか、帳簿書類の電子化!

② はじめませんか、書類のスキャナ保存!

③ 電子取引データの保存方法をご確認ください

と分かれています。①と②は「はじめませんか」となっていますので、任意です。③のみ今年から強制となります。当初は、③に対応しなければ青色申告の取り消しもあり得ると国税庁は言っていましたが、その後、2年間の猶予期間が設けられる等、少しトーンダウンしてきました。どうせ、しなければいけないものは今年からしておいた方が無難です。

③は例えば、電子メールの本文、添付ファイルで請求書に相当する情報をやりとりした場合、紙媒体ではなく、電子データで保存しなければなりません。データを保存する場合、PDFファイル名に「日付・取引先・金額を」を入れます。これにより検索可能となります。

そして②の紙媒体のものでも③と同様に電子データで保存することも認められています。うちの事務所では、この際、②も③も今年の1月から電子データで保存しています。①の電子帳簿は、会計ソフトが対応していますので、新年度より適用します。

②、③のためには、コピー機のスキャン機能の利用よりも、富士通のScanSnap(写真参照)を利用することをお勧めします。そもそも事務所では10年以上前よりScanSnapを1人1台机に置いて、書類を電子化していました。

領収書、請求書の証憑類のみ、のり付けして保存していました。これらの証憑類も今年から1枚1枚、スキャンしてファイル名を付けて、クラウド上のサーバ(安心君)に保存しています。この場合、決算期ごとに月別のファイルに保存することをお勧めしています。税務署に提出する場合、期間が経過して削除する場合に、便利と思います。

ScanSnapは10年間に比べると相当に進化してています。読み込むだけで、基本的に日付と店舗名がPDFファイル名に付されています。あとは金額の数値を入れるだけです。都度、スキャンすることがコツだと思います。なので、記帳してすぐにスキャンし、証憑類はそのままゴミ箱行きです。

いままでのり付けしていた手間がなくなり、書類がかさばることもなくてスッキリしています。快適な電子帳簿ライフです。

今年度の年末調整の改正点 第269回

税理士向けの研修DVDで「今年の年末調整の改正点」が販売され、何か改正があったかな?と思い、洩れがあってはいけないので見てみました。

昨年度は基礎控除などもろもろの改正があり、結構、大変でした。今年度の改正では、改正前は、源泉徴収に関する申告書の電子提出をする場合には、事前に税務署長の承認を受けなければならないとなっていました。改正後は税務署長の承認手続を廃止するとなっています。うちの事務所が請け負っている場合は、当たり前のように電子申告していましたので、ほぼ何も変わりません。

次に、押印義務の見直しがあります。改正前では税務関係書類には、一定の者が押印しなけらばなりませんでしたが、改正後は一定の書類を除き、押印を要しないとなっています。

これは新型コロナウイルス感染症の拡大防止のためにテレワークの推進のためとなっています。そもそも電子申告の場合には印鑑が不要となっています。このような業務効率化になる改正は歓迎です。以前は、申告書に修正がある度に、お客さんのところに改めて印鑑を頂きに行っていましたので、結構、大変でした。

ここで「一定の書類を除き」が気になります。令和3年4月1日以降は、次にものを除いて押印を要しないとなっています。

①担保提供関係書類および物納手続関係書類のうち、実印の押印及び印鑑証明書の添付を求めている書類

②財産分割協議書に関する書類

これだけですので、年末調整申告書について、従業員等の押印は不要となっています。

また、不動産契約書においても電子契約が導入されるようです。法改正が実施され、2022年5月頃から契約業務のデジタル化が本格的になってくる予想されています。そうなると、電子文章に電子署名等を用いて、契約締結できることになります。コスト削減、業務効率化のメリットがいわれていますが、手形と同様に印紙税がなくなるのではないかと考えられます。

電子帳簿保存法の改正(続) 第268回

前回、令和3年度の税制改正により電子帳簿保存法が改正について書きましたが、電子取引データの保存は令和4年1月1日から施行されますので、問合せが多くなっています。

そこで、前回に引き続き、電子帳簿保存法の改正についてです。電子取引データ保存については、令和4年1月1日から適用されます。電子取引の保存要件は二つあります。一つは、本当にその電子データが正しいものかを保証する仕組みの真実性の要件です。二つには該当する取引情報を調べることができる仕組みの可視性の要件です。

真実性の要件として

  • 取引相手がタイムスタンプを付与した取引情報を送信すること
  • 自社が取引情報を受け取った後にタイムスタンプを付与すること
  • 訂正削除の履歴を確認できるか、制定削除できないシステムを利用すること
  • 訂正削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用すること

となっています。タイムスタンプとは、電子文書の確定時刻を証明するための技術的な仕組みのことを言います。これら4つのうち、1つ以上に対応していればよいとされており、4番目の事務処理規程は国税庁のHPに様式がアップされています。当面は、この規程を作成しておけばOKのようです。

可視性の要件として

  • パソコン等で操作マニュアルを備え付け、取引情報を表示、印刷出来るようにしておくこと
  • システムの概要書を備え付けること(自社開発システムの場合)
  • 検索機能を確保すること

の3つすべてに対応していなければなりません。検索機能については「取引年月日・取引先名・取引金額」で検索可能であれば要件を満たしとしていますので、この3つを入れたファイル名で保存します。パソコンのフォルダ内にあればファイル名で検索が可能です。

要は、税務調査の際にすぐに取り出せることが求められているようです。調査の現場では、会計データをそのまま要求されるようになってきました。電子帳簿保存法の改正は、コロナ禍で滞っていた税務調査のための環境整備ではないかとも考えられます。

 

 

電子帳簿保存法の改正 第267回

令和3年度の税制改正により電子帳簿保存法が改正され、早くも令和4年1月1日から施行されます。

従来の電子帳簿保存法では、事前に税務署長の承認が必要とされ、スキャンで読み取ったデータについては、定期検査が必要とされており、専用機械導入、人的作業の増加ということで、費用対効果が見合わないものでした。

しかし、今回の改正では事前の承認制度の廃止、適正事務処理要件が廃止され「生産性の向上、記帳水準の向上等に資する」ため電子帳簿保存法が抜本的に改正されています。先月の税務調査では会計データの提出を求められました。税務調査の環境整備という意味合いが強いようです。

この制度は、①電子帳簿保存制度、②スキャナ保存制度、③電子取引制度の3つに分かれます。このうち③の電子取引データについて、来年1月以降に授受する場合には、電子データで保存することが原則として義務化されました。

電子取引とは、注文書や請求書、領収書等を電子メールなどで授受する取引をいいます。国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」の問4で具体的な例として次のものが挙げられています。

① 電子メールにより請求書や領収書等のデータを受領

② インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータを利用

③ 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用

④ クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用

⑤ 特定の取引に係るEDIシステムを利用

⑥ ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用

⑦ 請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領。

これらのデータは自社サーバまたはクラウドサービスに保存します。保存要件として、取引年月日、取引金額、取引先を条件に検索できること等とされています。令和4年1月1日以後、出力した書面で電子データを保存したり、保存要件を満たさない形で電子データを保存していた場合は、青色申告の承認の取り消しの対象となり得るとされています。

新型コロナに係わる給付金の課税 第235回

「持続化給付金の入金がありました」という連絡がお客様から報告があっています。意外と早く給付されているようです。持続化給付金受付のHPではシステム不具合で、一時給付額が何故かゼロになったりとしたこともありますが、無事に給付を受けています。

この持続化給付金は、最大で200万円給付されますが、法人税・所得税の課税対象ですので、申告の必要があります。同様に、雇用を維持した企業に休業手当を助成する雇用調整助成金も、課税対象となりますので、利益に計上します。

他に課税対象となるものとしては、小学校休業等対応助成金、小学校休業等対応支援金、感染拡大防止協力金などがあります。東京都の感染拡大防止協力金は、自治体によって名称や金額は異なりますが、休業要請に応じた事業者に現金を支給するものです。

これらは、所得税では事業所得等に区分されるものです。課税対象としては、他に一時所得(すまい給付金・地域振興券等)、雑所得(通常時のベビーシッター利用支援事業における助成等)に区分されるものがあります。

一方、非課税となるものは、次のような助成金です。

① 助成金の支給に根拠となる法令等の規定により、非課税所得とされるもの。10万円の特別定額給付金、子育て世帯への臨時特別給付金(対象児童一人あたり1万円)などは「新型コロナ税特法」により非課税とされています。

② 助成金が、学資として支給される金品、心身又は資産に加えられた損害について支給を受ける相当の見舞金に該当し、所得税の規定により非課税所得となるもの。

給付金は、業種によっては持続化にとても助かっています。ただ、業績がいい建設業などは、そもそも助成金検討の対象となりません。助成金を受領するよりも、売上が下がらないのが本来です。

 

 

新型コロナウイルスによる納税の特例猶予 第234回

国会では4月30日,新型コロナウイルス感染症及びそのまん延防止のための措置(「新型コロナ防止措置」)の影響の緩和を図るため,総額25兆円を超える令和2年度補正予算,新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律等が原案どおり可決・成立しています。

現行法では①換価の猶予と②納税の猶予がありますが、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が大幅に減少している場合として③納税の猶予の特例(特例猶予)が創設されました。

令和2年2月1日から令和3年1月31日に納期限が到来する国税については、

① 新型コロナウイルス感染症の影響により令和2年2月以降の1ヶ月以上のの期間において、売上高が前年比、概ね20%以上減少している。

② 国税を一時に納付することができない。

この場合に、税務署に申請すれば、納期限から1年間、特例猶予が認められます(新型コロナ税特法第3条)。特例猶予が認められると、猶予期間中の延滞税は全額免除されます。申請に当たっての担保提供は不要となっています。

国税と同様に地方税にも新型コロナウィルスの影響による徴収猶予の特例制度が、同じく令和2年4月30日に設けられています。条件は国税と同じく売上の20%減と納付が困難な場合となっています。

手続としては、国税、地方税それぞれで行うこととなります。今回のコロナ特例法で、対象となるものは、国税では法人税・所得税・消費税等、地方税では住民税、固定資産税等であり、社会保険料も対象となります。

固定資産税は新規取得については、最初の3年間は最大ゼロとなる減免措置が設けられています。既存資産の固定資産税等については、令和3年度分について、前年比30%以上減少した場合は半分に、50%以上減少した場合は全額免除するとなっています。このように納税の猶予ではなく、減免となると効果も大きくなってくると思います。