消費税

第310回 インボイス開始に向けた留意事項

国税庁は8月21日、「インボイス制度の開始に向けて特にご留意いただきたい事項」等を公表しました。登録申請期限は令和5年9月30日です。この日は土曜日ですが、10月2日(月)までの提出期限の延長はありません。

インボイス発行事業者は、制度が始まる10月1日の取引からインボイスの交付が義務付けされます。必ずしも10月1日以降に交付する請求書等から対応しなければならないわけではなく、令和5年9月中の取引について令和5年10月に請求を行う場合は、インボイス対応の必要はありません。令和5年9月中に請求書を発行し令和5年10月に納品を行う場合は、インボイス対応の必要があります。

インボイスの交付対応が必要となる10月1日を迎えても、インボイスの登録通知が届かない場合は、売手の対応として、次の①~③のいずれかとなります。

①事前にインボイスの交付が遅れる旨を先方に伝え、通知後にインボイスを交付する。

②通知を受けるまでは登録番号のない請求書等を交付し、通知後に改めてインボイスを交付し直す。

③通知後にすでに交付した請求書等との関連性を明らかにした上で、インボイスに不足する登録番号を書類やメール等でお知らせする。

買手の対応は、右記①②③のいずれかにより売手から受領したインボイスや登録番号のお知らせ等を保存することで、仕入税額控除を適用できます。

売手から受領したインボイスの登録番号が有効なものか否かは、事業者が確認する必要がありますが、全ての取引の都度確認する必要はなく、取引の継続性などを踏まえ、その確認頻度等は事業者が判断することになります。

なお、少額特例や2割特例、簡易課税の適用を受ける場合、インボイスを保存することなく仕入税額控除ができるため、こうした対応は不要とされています。

第302回 インボイス制度に係る令和5年度税制改正 下

令和5年度税制改正の消費税のインボイス制度に関して、今回は「2割特例」についてです。「2割特例」とは、これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合、3年間は仮受消費税の2割だけの納税で済む措置が施されています。

例えば、1千万円の売上で1百万円の仮受消費税があった場合、仮払消費税にかかわらず、仮受消費税の2割の20万円が納税となります。事務負担が大幅に軽減になるはずと税制大綱には書かれていますが、記帳そのものは変わりません。

「対象期間」は、令和5年10月1日から令和8年9月30日まで属する各課税期間となっていますので、個人事業者の場合、令和5年10月1日~12月の申告から令和8年分の申告までの期間となります。「対象者」は、インボイス発行事業者の登録をしなければ、課税事業者にならなかった個人・法人が対象です。

インボイス発行事業者が2割特例の適用を受ける場合、消費税申告書にその旨を付記することになります。簡易課税を適用する場合とは違い、確定申告書に付記するだけで、事前の届出は不要となります。

また、「一括比例配分方式」を適用した場合のように2年間の継続適用の縛りはありません。簡易課税と比べ非常に簡素に適用できることになります。「2割特例」は、税額への影響を直接的に緩和していくことが目的とされているので、簡易課税とは、届出の手続面も全く異なっています。

「2割特例」の適用を受けたインボイス発行事業者が、その翌年度中に簡易課税の適用届出書を提出した場合は、その提出した日の属する課税期間から簡易課税の適用が受けられます。本来は、簡易課税の適用を受ける課税期間の初日の前日までに届出書の提出が必要ですが、期中の届出で簡易課税の適用が可能となっています。

第301回 インボイス制度に係る令和5年度税制改正 上

令和4年12月16日に、令和5年度税制改正大綱が公表されました。これによれば令和5年10月1日より開始する消費税のインボイス制度について、「2割特例」「少額特例」「少額な返還インボイスの交付義務免除」等の負担軽減措置が講じられています。このうち「少額特例」とは、

①基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、

②令和5年10月1日から令和11年9月30日までの課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、

③帳簿の保存による仕入税額控除を認めるというものです。

①の「特定期間」とは建物の売却などで急激な課税売上高の変動に対応できるように設けられたもので、前事業年度の開始以後6月の期間となります。

②の「1万円未満」については税込価額で判定することになります。その金額の判定単位は、課税仕入れに係る1商品ごとの金額により判定するのではなく、1回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかにより判定することになります。

次に「少額な返還インボイスの交付義務免除」とは、売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務を免除するというものです。これは、全ての事業者が対象であり、適用期限のない恒久的な措置となります。

この見直しにより、売手負担の振込手数料に係る事務負担が解消され、小売業における商品の返品でも返還インボイスの交付義務が免除されることになります。

ただし、売手負担の振込手数料の会計処理については、「売上値引」で処理すれば返還インボイスは不要となりますが、「支払手数料」で処理していれば、買手に振込手数料を立替払いしてもらったと認識され、①振込手数料に係わるインボイスと②立替金精算書を合わせて保存することで、仕入税額控除が認められます。「売上値引」で処理しましょう。

インボイス制度の売手側の処理 第265回

令和3年10月1日から消費税のインボイス制度の登録申請が始まります。適用は2年後の令和5年10月1日からです。

「インボイス」とは、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。インボイスの記載事項としては次の6つです。

①適格請求書発行事業者の氏名または名称及び登録番号

②取引年月日

③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)

④税率ごとに区分して合計した対価の額及び適用税率

⑤税率ごとに区分した消費税額等

⑥書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

売手は軽減税率対象商品の販売の有無にかかわらず、取引先(課税事業者)から求められた場合は、適格請求書を交付しなければなりません。

適格請求書発行事業者が,不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合には,適格請求書に代えて,適格請求書の記載事項を簡易なものとした「適格簡易請求書(簡易インボイス)」を交付することができます。具体的には小売業、飲食店業、タクシー業、旅行業等になっています。

また、適格請求書の交付義務が免除される取引が定められています。

①3万円未満の公共交通機関による旅客の運送。1回の取引で判定し、月まとめ等の金額では判定しません。

②卸売市場において行う生鮮食料品等の販売。

③生産者が農業協同組合,漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売。

④3万円未満の自動販売機により行われる商品の販売等。

⑤郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス。

これらはインボイスの交付義務が免除されています。

実際に運用されるまでなかなか実感がわかないところですが、事前によく準備しておきましょう。

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インボイス制度の登録申請が始まります 第263回

消費税のインボイス制度における適格請求書発行事業者の登録申請の受付が、令和3年10月1日から始まります。消費税が10%に改正になった際にインボイス制度が令和5年10月1日から開始されることが決まりました。10%の増税もさることながら、こちらのインボイス制度は改正の本丸と思えるほど、影響が大きいと思います。2300億円の税収増加が見込まれています。

従来は、消費税は課税事業者であろうが、免税事業者であろうが、消費税課税取引に該当すれば、先方に請求できていました。売上高が1千万円以下であれば、消費税免税事業者となります。お客様には消費税を請求できて、消費税は免税ですので、いわゆる益税となっていました。実際に、売上高が1,000万円を超えないようにしている中小企業、個人事業主が多くおられます。

しかし、インボイス制度に移行すると、所轄税務署に申請して適格請求書発行事業者として登録番号を入手しないと、先方に消費税を請求できません。買い手側も登録事業者からの仕入でなければ仕入税額控除できません。請求書に登録番号がなければなりません。発注している側からすると、仕入税額控除ができないのならば、取引を見直すことは十分に考えられます。

そのため、たとえ売上高が1,000万円以下であっても、今後は免税事業者ではなく、「課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる可能性が高いと思います。結果、益税が相当減少するのではと思います。実際の運用は令和5年10月1日ですから、まだ2年の猶予がありますが、いよいよその登録申請の受付が今年の10月1日からスタートです。請求書の様式を変更しないといけないので、自社システムの請求書を発行している大手企業等は既に準備済みのようです。

登録申請書はe-Taxを利用して提出することができます。事務所ではお客様の電子申請を、今年の10月1日から順次行っていく予定です。

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居住用賃貸建物は仕入税額控除が制限されます(消費税改正) 第262回

令和2年10月1日以後の居住用賃貸建物の取得について、消費税の仕入税額控除が制限されています。まず「居住用賃貸建物」とは、住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物以外の建物で、高額特定資産または調整対象自己建設高額資産に該当するものをいいます。「居住用賃貸建物」には、その附属設備も含まれます。

「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいいます。例えば次のようなものです。

①建物の全てが店舗等の事業用施設である建物

②旅館業に係る施設の貸付に供する建物

③棚卸資産として取得した建物

ただし、居住用賃貸建物を商業用部分と居住用賃貸部分とに合理的に区分しているときは、居住用賃貸部分についてのみ仕入税額控除が制限されます。「合理的に区分している」とは、使用面積割合や使用面積に対する建設原価の割合などにより区分されていることをいいます。

居住用賃貸建物に係る資本的支出、すなわち資産の修理、改良等のために支出した金額のうち資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなる支出で1,000万円以上については、仕入税額控除が制限されます。

1,000万円未満の建物に係る資本的支出の場合は、仕入税額控除の制限は適用されません。高額特定資産を自己建設する場合には、課税仕入高(税抜)の累計額が1,000万円以上とならない課税期間までは、課税仕入については仕入税額控除の制限はありません。例えば1年目が600万円の材料費等であれば、税額控除ができ、2年目以降に累計で1,000万円を超えた年度から仕入税額控除ができなくなります。

条文からの引用が多く、わかりにくくなってしまいましたが、間違えないように慎重に処理しましょう。

※動画でも解説しています。

令和2年税制改正① マンションの消費税還付の廃止 第227回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

令和2年税制大綱において、ひっそりとですが衝撃的な改正が盛り込まれていました。税制大綱には「居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度の適正化」として載っています。

税制大綱の68頁に「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産に該当するもの課税仕入については、仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。ただし、 居住用賃貸建物(マンション)のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については、引き続き仕入税額控除制度の対象とする」と、消費税の「その他」のところに載っています。

一見、何のことかわからないかもしれませんが、これは節税スキームを禁止した改正です。

マンションの貸付けの取得に係る仕入税額については、住宅家賃(非課税売上)に対応するものとして、本来仕入税額控除の対象となるべきものではないけれども、仕入税額控除を行う事例が散見されるとして、令和2年10月1日以後に行うマンションの仕入について、仕入税額控除制度の適用を認められません。要は、還付されません。

ただし、令和2年3月末までの契約に基づき取得したマンションについては、同年 10 月1日以後にマンションの仕入を行った場合には、適用しないとしています。還付されるということです。

一定の経過措置が設けられています。仕入税額控除制度の適用が認められないこととされたマンションについて、3年以内に住宅の貸付け以外の貸付けの用に供した場合又は譲渡した場合には、調整するとなっています。

いずれにしても、マンション(居住用賃貸建物)による消費税還付のスキームを禁じられたということです。

 

消費税の不課税取引 第226回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

令和元年10月から消費税率が10%に引き上げられ、計算はしやすくはなりましたが、さすがに重税感があります。今年の6月30日まではキャッシュレスの場合の5%ポイント還元がありますので、更に7月以降はズシリときそうです。

基本的なところで、そもそも消費税の対象は、国内において、事業として対価を得て行われる、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して課税されます。従って、国外で行われる取引は、課税の対象となりません。

このように消費税の課税の対象となる取引は、資産の譲渡等となりますが、消費に負担を求める税として性格上、課税の対象としてなじまないもや社会政策的に課税が適当でないものは非課税取引とされます。

例えば、土地の譲渡、有価証券の譲渡、利息、医療の給付、介護サービス、住宅の貸し付け等が非課税取引となります。

非課税取引と間違いやすいのが不課税取引です。不課税取引とは、国内において事業者事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付、役務の提供に該当しないものです。

不課税取引は会計ソフト上では「対象外」として処理します。次のようなものが対象外となります。

① 給与・賃金…労働の対価であり、事業として行う資産の譲渡等に該当しません。

② 寄附金、見舞金…対価として支払われるものではありません。

③ 保険金や共済金…資産の譲渡等の対価とはいえません。

④ 株式の配当金…出資に基づいて支払われるものです。

⑤ 資産の廃棄や紛失…資産の譲渡等に該当しません。

⑥ 損害賠償金…対価として支払われるものではありません。

注意しなければいけないのは、売上非課税取引と不課税取引を混同しないことです。消費税還付等の計算において、課税売上割合を使用しますが、非課税と不課税を間違った場合、課税売上割合が大きく変わり、差額が多額に出ることがありますので、注意が必要です。

 

社宅建物の取得の消費税と賃料相当額 第223回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

社宅や社員寮は経費削減の観点から減少傾向にありましたが、近年、導入する会社が増えているそうです。その際の、消費税の処理について、大企業においても処理ミスし、過少申告加算税の対象となっている案件があるとのことですので、気をつけなければなりません。

社宅建物の取得は消費税の課税対象です。ここで、課税売上高5億円以上、または課税売上割合が95%未満の会社は、個別対応方式または一括比例方式を採用することになります。

個別対応方式を採用し、有償で従業員・役員に貸し付ける場合、住居用のため受取賃料は非課税売上となります。そうなると、建物の取得は、非課税売上対応の課税仕入に該当しますので、全額が仕入税額控除の対象となりません。

一方、従業員・役員に対して無償で貸し付ける場合は、消費税は不課税となり、建物の取得は共通対応の課税仕入となります。結果、課税売上割合に応じた消費税が控除(還付)の対象となります。

それで、そのまま従業員・役員から賃料を徴収している場合と、無償の場合とでは消費税の処理が異なります。修繕費についても同様の取扱いとなります。

また、従業員・役員に社宅を貸与する場合、賃貸料相当額を受け取っていれば、給与として課税されませんが、無償で貸与する場合は賃貸料相当額が給与として課税されます。従業員に対する賃貸料相当額または役員に対する賃貸料相当額(小規模住宅の場合)の計算方法は①~③の合計額となります。

①(建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%

②12円×(その建物の総床面積(㎡/3.3)

③(土地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

従業員から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、給与として課税されないこととなっています。

多店舗展開の事業 第220回

元気ですか! 福岡市天神の公認会計士・税理士の山崎隆弘です。

フランチャイジーまではいかなくても、代理店形式により、社員による独立を促す会社が増えてきました。代理店の場合、すでにお店または拠点があり、お客様がついています。

代理店になる側にとっては、一から場所を選んで、社員を採用してスタートするよりも随分と手間が省けます。もう既に売上が上がっているので、リスク面でも低くなります。また、自分のお店ということになり、モチベーション的にもアップし、売上増加につながります。

会社側からすれば、現地での採用等は代理店の方ですることになれば、管理面で少し手が離れることになります。全く手を離れることにはなりません。

得意先との関係では、代理店になっても、本社から請求書を送付する流れであれば、売上高はそのままです。業務委託費等の科目で、代理店に業務委託料を支払います。代理店に計上される利益分が減ることになります。

代理店に限らず、直轄の支店・営業所であっても同様に、各場所別等の損益管理をする必要があります。税務申告用の全社一本の損益計算書では、どこで利益を上げて、どこで損失を出しているのかわかりません。

その場合、支店・営業所・代理店に直接係る経費は、該当の支店等に計上します。本社または本部など共通経費は、各支店・営業所に按分することになります。詳しくは拙著『なぜ、できる社長は損益計算書を信じないのか』をご参照ください。

代理店については、独立採算でやっていれば、本社の共通経費を按分するには無理があります。ただし、共通経費を一部、代理店に請求することは考えられます。

利益に直結するところでは、代理店手数料または業務委託費の率・割合をどのように決定するかです。シミュレーションをしてお互いが納得するところで折り合う形になると思いますが、実態をみながら、見直すことも必要となってきます。

また、消費税改正により、令和5年10月1日からインボイス方式となり、消費税の益税がほぼなくなります(簡易課税を選択している場合に、益税になることはあります)。代理店が免税事業者であった場合、業務委託費は課税仕入とはならず、消費税負担が重くなってきます。代理店が、消費税の課税事業者になるか、免税事業者のままでいいのかを含めて、検討しましょう。