経費

第298回 給与源泉の甲・乙・丙

コロナ禍以来、3年振りに税務調査が本格的に再開されました。うちの事務所でも、ほぼ毎月、税務調査の立会に追われています。団塊の世代と入れ替わり、税務職員は若返っています。定年近い人と新人の組み合わせが多くみられます。

細かい指摘も多くなってきています。バイトが多い業種では、給与明細を一生懸命見られます。そんなところを見ても何も出てこないのでは?と思ってしまいます。ところが社員、バイト全員の給与明細、年末調整表を持って帰りました。最近の調査で必ず言われることは、永年勤続や表彰の金一封、旅行券などは、必ず源泉所得税を徴収してくださいということです。バイトの人には関係のないことなので疑問でした。

バイトの人は短期で、掛け持ちが多いので、基本的に年末調整をしていません。年末調整の前提として、社員・バイトの人に「給与所得者の扶養控除等申告書」を書いてもらいます。結論的には、この「給与所得者の扶養控除等申告書」があれば、「甲欄」での源泉徴収額となりますが、これがなければ「乙欄」での源泉徴収額になるという指摘です。

ここで「甲欄」とは主たる給与の場合の源泉徴収税額、「乙欄」とは従たる給与の場合の源泉徴収税額です。従の「乙欄」は主の「甲欄」よりも源泉徴収額が多めとなっています。「給与所得者の扶養控除等申告書」がない人は「乙欄」とみなされ、「甲欄」との差額を納税することになりました。人数が多ければそこそこの金額になります。

日頃は使用しませんが、「丙欄」というのもあります。これは日雇賃金の場合の源泉徴収額で「乙欄」よりも更に多額になります。例えば、病院で、外注のドクターに対し毎回、日額分を手渡していたら、「丙欄」とみなされかねませんので、気をつけましょう。

『月刊ヤマサキズム』2022年9月号 Vol.165

こんにちは。

公認会計士・税理士 山崎隆弘事務所の山崎二三代でございます。

令和4年9月号のニュースレター「ヤマサキズム」ができあがりました。

 

お盆を過ぎてようやく朝晩涼しくなりました。皆様、夏の疲れは出ていませんでしょうか?

8月は思いっきり屋外を楽しみました。家族そろってのバンガロー宿泊で、慣れない炭火を起こしてバーベキューをするという、非アウトドア派の山崎家、がんばりました(笑)

とても楽しく、また炭火を起こしたいね、と思っても道具がない(笑)。ハマるほどとは思えないし、道具をどうしたものかと思っています。

 

その他、それぞれの夏を楽しむ様子や、猫の写真などどうぞお楽しみください。

過ごしやすい秋がやってきます。実りの秋、スポーツの秋、またまた楽しいことが起こりそうです。

 

毎号、皆様よりたくさんのご感想をいただいております。この場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございます!

山崎二三代

連結納税制度からグループ通算制度への移行 第266回

令和2年度税制改正により、「連結納税制度を⾒直し、グループ通算制度へ移⾏」することとなっています。グループ通算制度は令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度から適用となります。

グループ通算制度は完全支配関係にある親子会社において申請が可能となります。完全支配関係とは、法人の株式の全部を直接または間接に保有する一定の関係です。従来から連結納税制度を選択している法人は、連結納税制度に代えて通算制度の適用を受けることになり、通算法人として申告することになります。子会社も同様です。

ただし、連結親法人が令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までに税務署長に「グループ通算制度へ移行しない旨の届出書」を提出した場合には、その連結親法人及び連結子法人は令和4年4月1日以後に開始する事業年度については連結納税制度及び通算制度のいずれも適用しない法人として単体申告を行うことができます。

もともと、連結納税制度は一度選択したら2度と元に戻れなかった制度です。株主が変わり、連結納税グループから外れることはありました。まさかグループ通算制度の導入によって連結納税制度がなくなるとは想定外でした。グループ会社がいずれも黒字であれば、中小企業の特例である800万円までの軽減税率を各社使用できた方が税務的に有利です。

また、連結納税制度を使用していると税務調査があまりないということがありました。1社修正すると、他の連結グループ全ての会社の税額計算に影響を与え、計算そのものが大変です。専用ソフトがなければ実質ムリです。そのことを解消するためにも、グループ通算制度を導入したとされています。

グループ通算制度では、親会社も子会社も各社、法人税の申告をしなければなりません。修正があれば、その1社のみで済みます。税務署からの資料には記載がありませんが、税務調査への環境整備ともいえそうです。

小規模企業共済のデメリット 第255回

確定申告において「小規模企業共済等掛金控除」により掛金全額が所得控除できます。通常は会計事務所等から勧められて入るようです。うちの事務所では基本的に保険関係は一切勧めていませんので、お客様がご自身で加入した、または以前に入っていた場合のみです。

会計事務所が勧めるのは、事務所に手数料が入るからという理由もあります。保険にしても同様です。ほとんど保険代理店のような会計事務所もあります。業界では収益の3割は保険収入とも聞いたことがあります。保険に対する考え方の違いだと思いますが、うちでは本業に専念しています。

小規模企業共済だけに限れば、中小機構のHPにデメリットが載っています。共済金Aは個人事業を廃業した場合、または共済契約者が亡くなった場合に請求できます。個人事業主の場合、死ぬまで現役というのが最大のメリットではないでしょうか。その場合、死亡後でないともらえないとなれば、自分で使うことはできません。

共済金Bは老齢給付として請求できますが、65才以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだ人が対象となります。180ヶ月ということは15年間です。貸付金として借り入れることはできますが、15年間は使用できないということです。事業をしている場合、大事なのはキャッシュが手元にあるか否かです。一旦払い込んでしまえば、自由に使えなくなりますので、私は保険は最低限としています。

掛金納付月数が20年未満で任意解約した場合は、共済金は掛金合計額を下回るとあります。加入期間が20年以上でも、途中で増額・減額した場合は下回ることがあるとなっています。であれば、貯金しておいた方がと、つい思ってしまいます。

中小機構HPの決算書をみると令和元年度の決算では、純資産が1,571億円減少しています。主な理由としてコロナウィルスによる景気悪化で信託資産が913億円減ったためとされ、大赤字となっていました。運用の失敗です。

目先の節税効果だけで判断せず、長い目で加入を検討しましょう。実際にいくら減税になるかを計算すると力抜けるくらい低い金額だったりします。

役員への社宅貸与 第254回

役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から「賃貸料相当額」を受け取っていれば、給与として課税されません。

この「賃貸料相当額」は、小規模な住宅とそうでない場合とで計算方法が異なってきます。耐用年数が30年以下の建物では床面積が132㎡以下の住宅、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には床面積が99㎡以下の住宅が小規模な住宅とされます。要は木造建物では132㎡以下、マンションでは99㎡以下が小規模な住宅です。

小規模な住宅の場合の「賃貸料相当額」は①~③の合計額となります。

① (建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%

② 12円×(その建物の総床面積(坪数)

③ (土地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

この算式で1ヶ月の家賃を計算すると、数万円程度となります。例えば、会社が家主に払う金額10万円に対して役員が負担する家賃は2万円程度です。この2万円は雑収入として計上します。差額8万円が実質の経費となります。福岡という地方都市なのでこれだけ低くなるのかと思っていましたが、東京のお客様で計算しても、同じような金額となりました。

建物・土地の課税標準額を家主に教えてもらうことが難しいと感じていましたが、賃貸人であれば、役所で「土地・家屋評価証明書」の発行が可能であり、課税標準額は判ります。マンションの場合は、1部屋のみという数字はでていませんので、全体の㎡数に対する、賃貸している部屋の㎡数の割合で算出します。

役員に貸与する社宅が小規模の住宅に該当せず、自社所有の社宅である場合には、建物の課税標準額×1%と土地の課税標準額×0.5%の合計が「賃貸料相当額」となります。ただし床面積が240㎡を超える等、「豪華住宅」である場合には、この算式の適用はなく、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になります。

 

マイホーム売却損失の損益通算 第252回

今年もいよいよ確定申告のシーズンとなってきました。コロナ禍により、1月に予定されていた税務調査が延期となり、緊急事態宣言中の調査はなさそうです。12月決算の法人の決算申告と、個人の確定申告に集中できます。

所得税の確定申告に係わることということで、マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例です。この特例は、住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき、要件を満たせば、その年の給与所得や事業所得などと損益通算することができます。繰越控除は翌年以後3年内に繰越して控除することができます。

主な要件としては、住宅ローンが償還期間10年以上の残高があり、マイホームの譲渡金額が住宅ローン残高を下回っている場合です。マイホームを売却しても、住宅ローンが残っているときの、救済措置の意味合いがあるのでしょう。

そのことは、譲渡損失の損益通算の限度額にも表れています。国税庁のHPの例では、6千万円で買ったマイホームを2千万円で売却して△4千万円の譲渡損失が発生しています(減価償却は考慮せず)。住宅ローンの残高は3千万円残っており、売却代金で返済してもまだ1千万円の住宅ローンが残ります。この場合、1千万円が損益通算できる限度額となります。

この特例では、親子や夫婦など特別の関係がある人に対してマイホームを売却した場合は、損益通算及び繰越控除の両方が適用できません。住宅借入金等特別控除制度とマイホーム譲渡所得の3千万円控除は併用できませんが、この特例と住宅借入金等特別控除制度は併用できます。やはり救済の意味合いがあるようです。

また、繰越控除が適用できない場合として、合計所得金額が3千万円を超える年は、その年度のみ適用はできないこととなっています。

 

会計事務所の変更 第251回

昨年の暮れ、会計士の二人の後輩がお亡くなりになりました。ご家族の方にはお悔やみを申し上げます。一人は風呂場でのハートアタックと聞いています。もう一人は肺炎だそうです。どちらも私よりも10才以上若く、正月の2日にお通夜に行きました。

無常の世のことですから、油断はできません。昨年、私が胆管炎で入院したときには、敗血症を起こして危ないところだったようです。

ブログの記事を基に、月に1回YouTubeに動画をアップしています。その動画を撮ってくれている狩生さんから、会計事務所を変更して引き継ぐのは大変ではないのかとお尋ねがありました。会社内で異動がある場合、退職する場合などの引継は結構、日数を要します。個人個人の仕事は属人的なものが多くありますから、大変だと思います。

ところが、会計事務所を変更する場合は、ほぼ引継はありません。会計は複式簿記により仕訳され、総勘定元帳、補助元帳に集計されますので、帳簿を見ればほとんどのことは分かります。税務調査で調査官が帳簿をめくって調査しますが、中小企業の場合は数日で終わります。決算書、勘定内訳書、税務申告書をみるだけでも大概のことは分かります。会社の業務内容については、社長に聞く方が実態がよく把握できます。

会計監査の引継の際には、監査上の問題点などを聞く必要があります。これは監査調書に記載されていることですので、新旧の会計士で引継を行います。

最近は、ほぼどの会社でも会計ソフトを使用していますので、ソフトが同じであれば、データを入手すれば、それで引継が終わりとも言えます。ソフトが異なっていても、帳簿体系は同じですので、会社に保管されている総勘定元帳等を見れば済みます。

お互い元気な場合は、変更がない方が望ましい状況です。まさかの時にも、慌てずにジックリと選びましょう。

適正な借入金は? 第243回

TBSドラマの『半沢直樹』が9月27日で終了しました。最終回の視聴率は44.1%と社会現象化するほどでした。後半は、銀行からの借入金を債務免除するかどうかのお話です。コロナ禍のため、新型コロナウイルス感染症特別貸付などにより、銀行からの借入金が増加傾向にあります。どの程度の借入金残高が適正であるのかとの問合せがあっています。

指標の一つに借入月商倍率があります。借入金を1ヶ月の売上で割ったものです。例えば、月平均売上が1千万円で借入金が2千万円あれば、借入月商倍率は2倍になります。一般的に借入月商倍率は2~3倍が適正とされます。しかし、これは運転資金に限ればともいえます。

設備投資であれば1億円を10年で借りた場合、1億円÷1千万円=10倍になります。だからといって即過大とはなりません。不動産投資などは10億円の借入ということもあり得ます。借入金10億円に対して、10億円の土地・建物が計上されることになります。問題は、この収益物件が返済可能金額を稼ぎだすかです。

法人の場合、返済の原資は、当期純利益+減価償却費です。減価償却費は既に支出しているものを、耐用年数にわたって費用化していくものですので、実際にはキャッシュは出ていきません。ですので、当期純利益に減価償却費を足したものが年間返済可能額となります。

借入金÷(当期純利益+減価償却費)が償還年数となります。年間返済可能額が1年間に返済する金額を上回っていなければなりません。そうでなければ、返済のために更に追加で借入をしなければならず、年々に膨れ上がっていきます。

また、短期借入金は一括返済できればいいですが、通常はなかなか難しいので、更新されていきます。金融機関の都合で更新されなかったり、更新の日数を開けられたりすると、いきなり倒産ということになりかねません。短期を長期に振り替えて、極力、返済していくようにしましょう。コロナ融資では返済開始を遅らせることもできるようになっていますが、その分、返済開始後の年間の返済金額が多くなりますので、気を付けましょう。

 

 

『善と悪の経済学』 第242回

以前、映画『コンフィデンスマンJP』を取り上げました。映画版を見たついでに、テレビシリーズも見てみました。10回シリーズで、冒頭に長澤まさみが警句を読み上げます。そのなかで「欲望は、満たされることを望まない。欲望は、増殖することを望む。欲望は無限だ」とのトーマス・セドラチェクの言葉がありましたので、セドラチェクについて調べてみました。

セドラチェクは1977年生まれのチェコ共和国の経済学者で『善と悪の経済学』という15の原語に翻訳されたベストセラーを書いています。NHKの「欲望の資本主義」という番組に出演しています。この両書をシルバーウィークに読んで見ました。

経営計画書を作成するときに、当たり前に前年よりも売上が増加する計画とします。そもそも、それが固定観念になっているとセドラチェクは警告します。とくにコロナ禍のなかでは前年よりも伸ばすという計画は、業種によっては現実に難しくなっています。

私たちが生きている社会は「成長資本主義」であり、経済が成長し続けるという前提で計画を立てるのは、毎日順風が吹くという甘い前提で船を造るようなものだとします。凪でも嵐でもうまく航海できるのが良い船ではないかと言います。

今日の経済学では、成長のための成長だけが存在し、一休みできる目標がありません。子どもは成長しますが、大人は成長しません。大人を無理やり成長させようとすると、醜く太るだけであり、成長するのが当たり前というのは、経済学における神話だとまで言い切ります。

セドラチェクは、成長した分で消費を増やすのではなく、債務を減らすべきだとしています。銀行でおカネを借りるということは、銀行がおカネの出どころと思ってしまいがちですが、実際には、おカネの出どころは将来の自分です。

借金をお酒とみなし、お酒のお陰で元気になっているのは、翌日に二日酔いで苦しむのがハッキリしているのに、土曜のエネルギーを金曜日の夜にタイムトラベルさせているだけと譬えます。安定させるためには借金を減らさなければなりません。

飽和に時代に、人類が成長すべきは経済ではなく、芸術、友情、精神など他の分野で成長すべきであると、最先端の経済学者からの提言です。

2021年度の固定資産税の軽減措置 第241回

今年度の固定資産税は、既に納付書が送付され納税金額が確定しています。ただし、納税猶予制度はあります。

来年の2021年度の固定資産税については、 2020年2月~10月の任意の連続する3月の期間の事業収入が、

  • 前年同期比▲30%~50%未満の場合は、 1/2軽減され、
  • 前年同期比▲50%以上の場合は、全額免除されます。

対象は中小事業者(個人・法人)です。

法人については、資本金の額が1億円以下の法人及び資本又は出資を有しない法人のうち従業員数が1,000人以下の法人となります。ただし、大企業の子会社は除かれます。

軽減対象となるものは、設備等の償却資産及び事業用家屋に対する固定資産税、都市計画税です。ここで事業用家屋とは、非居住用家屋であって、一般的には工場などの事業用の建屋等を想定しているとのことです。個人の所有する居住用の家屋は対象外です。

個人(会社の経営者)が個人事業主として自ら事業を行っており、当該事業として家屋を貸し付ている場合、当該事業収入の減少要件等を満たせば対象となり得ると、されています。

申請方法は、認定経営革新等支援機関等に、①中小事業者等であること、②事業収入の減少、③特例対象家屋の居住用・事業用割合について、確認を受けなければなりません。うちの事務所は、認定経営革新等支援機関に認定されていますので、対応可能です。

事業者は、2021年1月以降に申請期限(2021年1月末)に固定資産税を納付する市町村に、認定経営革新等支援機関等が発行した確認書と必要書類とともに軽減を申請することになります。

まずは、認定経営革新等支援機関から①中小事業者(個人、法人)であること、②事業収入の減少、③特例対象家屋の居住用・事業用割合について、確認を受けることとなります。