書評

第282回 書評『財務省、偽りの代償 国家財政は破綻しない』

元財務省官僚の高橋洋一さん新刊です。著者は財務省では珍しく東京大学理学部数学科の出身です。そのため理系的な思考で語られます。YouTubeで国家の貸借対照表(BSバランスシート)を最初に作ったのは自分だと仰っていたので読んでみました。

1995年に日本の政府BSを作り、それを見た各国政府から、作り方を教えてくれと要請され、他の先進国はその2年後から作っているそうです。高橋さんの『理系思考入門』によれば、政府が財務書類として発表している会計には、①一般会計、②一般会計+特別会計、③連結会計(日銀を除く)の3種類があります。

一般会計とは、社会保障、地方交付税、公共事業、文教、防衛等に当てられるものです。特別会計には、年金特別会計、労働保険特別会計、外国為替資金特別会計などが含まれています。連結会計は、日本郵政、日本政策投資銀行などの特殊法人、預金保険機構などの認可法人、国際協力機構、都市再生機構などの独立行政法人、国立大学法人などが連結されています。

一般会計だけで国の財政を話しても意味がありません。会社でいえば一事業部の決算を見て会社全体の財務が語られないのと同じです。損益計算書(PL)はごまかし易いですが、BSはごまかしが効きません。財務状況を把握するにはBSを見なければなりません。

日本には1,000兆円の債務があるから財務状況が厳しいというのはまやかしであるとします。他国に比べて負債は多いけれども、それに見合う巨大な資産を保有しているので、大変な状態ではないとします。その場合、資産を売却して、負債を圧縮するのが通常だそうですが、高橋さんに言わせると、法人などを売却すると天下り先がなくなってしまうので、財務省としてはそれはしたくないそうです。

また、1万円札の製造原価は国家機密なので本来言ってはならないとしながらも、20円だとバラしています。国債を発行して日銀に買わせていますが、日銀は一万円札を刷るたびに9980円儲かる仕組みとなっています。

第281回 書評『ハリウッド映画の正体』

副島隆彦先生が監修、西森マリーさん著者の『カバールの民衆「洗脳」装置としてのハリウッド映画の正体』です。毎年、150本ほどの映画を観ますが、最近のハリウッド映画の質の低下というか、観終わったあとの気分の悪さを感じていました。その正体をハッキリと示してくれました。

監修の副島先生は「ハリウッド映画をエンタメとしてしか見てこなかった人たちは、ことの真相はどうだったのかを、この本と共に考えることで自分の脳を訓練しなさい」と冒頭に記しています。

ペンタゴンもCIAもハリウッドにオフィスを構えて、メジャーな映画制作会社と常に連絡を取り、「国防のため」という大義名分のもと、米軍やCIAをネガティブに描く脚本を握りつぶしています。CIAの意向に沿わない脚本は、構想の段階で潰され、CIAの承諾を受けた脚本しか映画化に至らないそうです。

FBIも同様に、ハリウッドに広報局のオフィスを構え、映画関係者に積極的に働きかけています。また、FBIはあらゆる議員、政治家、判事、検事、財界人、有名人をスパイしており、自分たちが弱みを握った人物のみの出世を許しています。弱みがないと、高い地位についたときに脅しが効かないからだそうです。

映画産業は、人々の心や文化に最も大きな影響を与えるものとして、例えばチャップリンの影響力を恐れ、ホテルの部屋に盗聴器を仕掛けていたことがMI5の文書に記されています。FBIはマリリン・モンローを監視、盗聴し、JFKと弟のロバート・ケネディの両方と関係を持っていた証拠をつかんでいました。

これらはほんの一例です。いわゆる映画史上の名画といわれるものも、不都合な史実からいかに注意を逸らさせるものであったかを、膨大な映画を例にして述べています。本当に油断もスキもあったものではありません。テレビと同様に、うっかり見ていると洗脳されてしまいます。

馬渕睦夫『日本を蝕む 新・共産主義』 第277回

元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫さんの新刊です。ウクライナ情勢を見聞する過程で、馬渕さんの存在を知りました。1946年京都府生まれで、京都大学法学部3年在学中に外部公務員上級試験に合格し、1968年に外務省に入省しています。2011年3月に65才で定年退職し、2012年から精力的に著作、講演活動を行っておられます。現在76才です。

「新共産主義」といってもピンときません。副題は「ポリティカル・コレクトネスの欺瞞を見破る精神再武装」です。本の帯には「ポリティカル・コレクトネスと共産主義、このふたつは同じコインの表裏。新自由主義というのも実は共産主義の裏返し」とあります。

ウィキペディアによれば、ポリティカル・コレクトネスとは「社会の特定のグループのメンバーに 不快感や不利益を与えないように意図された言語、政策、対策を表す言葉である」とあります。マイノリティの権利を守るということで、一見、とてもよさそうですが、馬淵さんによるとディープステート(隠れた支配層 DS )の支配戦略となります。マイノリティを使って、他国を支配するのはDSの常套手段だそうです。

共産主義はソ連が崩壊して、世界から消えたような印象があります。共産主義はマルクスが考え出したものとなっていますが、そもそもマルクスの研究を支援したのがユダヤ系大富豪ロスチャイルド(DS)でした。ソ連崩壊の教訓は「今を否定して未来の理想社会を語る言説をうかつに信用してはならない」と馬淵さんは強調し、2022年の今、再認識する必要があるとします。「社会主義・マルクス主義」は「共産主義思想の左傾化したリベラル勢力」となっています。新自由主義、グローバリズムこそが新共産主義から出たものであり、SDGsもその一環であるとしています。この新共産主義とポリティカル・コレクトネスは裏表一体であり、日本そして世界を分断させるためのDSの戦略であると警鐘します。

ウクライナ情勢については10年前から詳しくレポートしています。メディア報道とは一線を画すというより、真逆のことをウクライナに在住して大使としての経験を踏まえての解説ですので、とても説得力があります。

書評『生涯弁護人』弘中惇一郎 第274回

弘中惇一郎弁護士の『生涯弁護人 事件ファイル①』『同②』です。2冊の表紙に載っている写真を見ても、世間では極悪人とされている人たちです。元厚労省官僚の村木厚子氏、野村沙知代さんなどは意味合いが違いますが、いずれも弁護を引き受けた弘中弁護士の事件ファイルとして、事件の概要、公判の内容が詳しく書かれています。

一読すると、いかに自分自身がマスコミの報道により偏った見方をしていたかを思い知らされます。素人考え的には、どうして犯罪者の肩を持つのかとも思ってしまいます。弘中弁護士が弁護を引き受けるか否かの基本スタンスは、依頼人が信頼できるかどうかだそうです。

第一のポイントは、本当のことを言ってくれているかどうかです。事実を隠されたままでは弁護のしようがなく、悪いことをしたならしたで、事実を言ってくれれば弁護の方法があるそうです。第二のポイントは、弁護士の意見に依頼人が耳を傾けてくれるかどうかです。

例えば、三浦和義氏は事実を包み隠さずに話し、自身の女性関係も否定しませんでした。永年にわたる三浦氏の弁護活動において、彼にウソをつかれた記憶は一度もなく、疑ったこともないと断言しています。三浦氏は常々、弘中弁護士に「僕は酒も呑まないし、ギャンブルもやらない。美食家でもないし、着るものはジーンズ程度。そんな僕が、なんでお金のために妻殺しなんて考えるんですか」と言っていたそうですが、それはすべて事実であったと記されています。

三浦和義氏などは、明らかに有罪だろうと、この本を読むまでは思っていましたが、いかに無理筋であったかが判りました。ところが一審で有罪となります。当該裁判長は「日本中が有罪と信じているのにどうして裁判所が無罪を言い渡せるのか」と真顔で言ったとあります。結果、二審で逆転無罪となりますが、無罪となったことさえ、私はよく知りませんでした。先入観とは恐ろしいものです。

安部英医師の薬害エイズ事件においても、世間では極悪人のように言われ、私自身そう思っていましたが、全くの誤解でした。無罪判決となり、裁判所から報道陣をまくために、三浦和義氏が一肌抜いだことなどは、いかに依頼者と信頼関係で結ばれていたかが判ります。

同じ職業的専門家として、弘中弁護士の真摯な姿勢にとても感銘しました。

書評『世界は「関係」でできている』 第273回

量子力学の理論物理学者カルロ・ロヴェッリの一般読者向けの『時間は存在しない』に続く新作です。前著では「量子力学は、物理的な変数が粒状であること(粒状性)と不確定であること(不確定性)とほかとの関係に依存すること(関係性)、この三つの基本的な発見をもたらした」とし、「存在するのは、出来事と関係だけ。これが、基本的な物理学における時間のない世界」とこれまでの到達点の解説でした。

『世界は「関係」でできている』はその3年後の著書です。古い物理学が提供してきた明瞭で確固たる世界観は、実は幻であったとして、発見から100年経過しても、今だに解明できていない量子論。「堅牢だったはずの物理学的世界は、どうやら雲をいただく塔や、絢爛豪華な宮殿のように、宙に消えてしまった」とします。

「この世界が属性を持つ実体で構成されているという見方を飛び越えて、あらゆるものを関係という観点から考えるしかない」という結論になっていきます。

そして、ナーガールジュナ(龍樹)の『中論』にたどり着きます。「わたしたちがいるということの芯になる本質、理解すべき謎に包まれた究極の本質は、存在しない。わたしは、互いに連絡し合う膨大な現象が構成する総体でしかなく、それらは依存し合っている」というまさに仏教の空の思想、縁起説になってきます。このことはロヴェッリにとっては意外な発見となりました。

20世紀の物理学の最大の発見は、相対性理論と量子理論だそうです。「アインシュタインの特殊相対性理論を通して、同時性が相対的な概念であることを発見した。量子論の発見はそれよりほんの少しだけ過激で、この理論によると、あらゆる対象物のあらゆる属性が、速度のように相対的だということ」になります。

「何かを理解しようとするときに確かさを求めるのは、人間が犯す最大の過ちの一つだ」と著者は言います。これらなどは浄土真宗の「信心」に繋がっていきます。

書評『嫌われた監督』 第270回

今年の日本シリーズはヤクルトVSオリックスで、ソフトバンクホークスはクライマックスシリーズさえも出場できず、ひいきのチームが出ていないとこれだけ興味がわかないものかと思えるくらい、全くの無関心でした。

替わりにと言っては何ですが、中日ドラゴンズの落合博満監督時代のことを書いた『嫌われた監督』を読んでいました。ジュンク堂でベストセラー1位となっています。落合監督は8年間でリーグ優勝4回、日本一1回の成績を残しています。

『嫌われた監督』は監督就任から退任までの8年間をそれぞれ一人の選手・フロントを取りあげて、落合監督との係わりで書かれています。著者は当時、中日番の記者だった鈴木忠平さんです。

あまりに面白くて一気読みしてしまいました。現役時代は3度の三冠王と圧倒的な成績を残した落合監督ですが、孤高のイメージが強いです。監督になってからも、周りに理解されずに年々に孤立していき、監督最後のシーズンは何とペナントレースが終わらないうちに、球団社長から契約を更新しない旨の発表がありました。

その時点で、首位ヤクルト4.5ゲーム差がありました。直前の巨人との対戦で負け、ほぼ優勝の行方が決まりつつある状況でした。真偽のほどはハッキリしませんが、巨人戦を観戦していた当時の中日球団社長がガッツポーズをしたという噂が広がり、選手一同燃え上がり逆転のリーグ優勝してしまいます。日本シリーズではソフトバンクに3勝4敗で負けますが、これは余興のようです。

著者の鈴木記者は落合監督の自宅に押しかけたり、新幹線に同席して取材していました。最終章に「落合というフィルターを通して見ると、世界は劇的にその色を変えていった。この世にはあらかじめ決められた正義も悪もなかった。列に並んだ先には何もなく、自らの喪失を賭けた戦いは一人一人の眼前にあった。孤独になること、そのために戦い続けること、それが生きることであるように思えた」と書いています。回りに流されず、自分を貫いた落合監督に十分、共感しました。

書評『岸惠子自伝』 第264回

日経新聞に岸惠子さんの「私の履歴書」が昨年、2020年5月に連載されていました。とても興味深く読んでいました。「履歴書」は経済人よりも芸術系の人が興味深いです。今年の5月は吉行和子さんでしたが、実兄の吉行淳之介さんも登場し、お母さんは朝ドラのモデルになったような人で、こちらも面白かったです。経済人の場合は、どうしても自慢話を聞かされているようで、読む気が失せてきます。

その「履歴書」の焼き直しではなく、ご自身で書かれた自伝です。日経での連載が評判が良く、各出版社からオファーがあったなかで、岩波書店から『岸惠子自伝―卵を割らなければ、オムレツは食べられない』として出版です。岸さんは女優として有名ですが、作家、国際ジャーナリストとしても活躍しています。過去の著作は全て10万部以上売れているそうです。さすがに文章がこなれてます。

1932年生まれの今年89才です。太平洋戦争の終戦末期には実家がある横浜で空襲に遭い、防空壕から一人飛び出して、母親との待ち合わせ場所に辿り着き、生き残ります。防空壕にいた人は全員亡くなったそうです。

高校生のときに松竹の撮影所に出入りするようになり、バイト代並みの出演料でどんどんと抜擢されていきます。さすがの美貌で、周りの男たちが寄ってきます。『君の名は』の真知子役で一世を風靡します。相手役は佐田啓二です。流行った「真知子巻き」は撮影中にぼたん雪が吹いて寒くて大庭監督に無理を言って承知してもらったそうです。戦時中の防空頭巾でした。

人気絶頂の最中、25歳のときにフランス人のイヴ・シャピエと結婚し、パリ在住となります。登場する人たちが、力道山、王さん、長嶋さん、デビット・リーン監督、川端康成さん等々、歴史上の人物、有名人です。美智子皇后まで出てこられます。

夫の不倫により43才で離婚します。そこから更にジャーナリスト、女優、作家として活躍し、2019年には一人舞台を全国10ヶ所で公演し、現役バリバリです。68才の時には、初孫が誕生して1年余りのぼせ上がっていたというのも笑えました。