書評

第303回 書評『運をつかむ』

日本電産㈱の永守重信会長の著書です。2023年4月1日に創業50周年を迎え、社名をニデック株式会社としています。

約20年ほど前に、会計監査に携わっていた飯塚の会社が日本電産にM&Aされ、永守会長の指導の厳しさは傍目で見ていました。「すぐやる」「必ずやる」「出来るまでやる」の標語が会社のいたるところに貼られていました。

毎月、京都から経営改善のために来社し、1日中会議をされていました。会議中の昼食弁当代は各々手出しでした。ボールペン1本も支払わないと使えません。懇意にしていた経理部長さんは毎朝点滴を打って、出社されており、あまりいい印象を抱いてませんでしたが、人から勧められ読んでみました。

人生は運が7割とします。運は縁によって運ばれてくるものだから、人から好かれることはとても大事であり、好かれるためには、ユーモアと謙虚さが大事であるとします。挨拶では必ずユーモアを入れるようにしており、トランプ大統領(当時)と経済界のメンバーで会食したときには、型通りの挨拶のなか、同大統領は永守会長の挨拶に爆笑だったそうです。

IQ(知能指数)よりもEQ(感情指数)が大事であるとし、IQはどんなに頭がよくてもせいぜい5倍程度ですが、EQが高い社員は、やる気のない社員に比べたら100倍以上の差が生まれると強調します。高いEQを身につけるには、真剣な思いや情熱がなければならない。そうでなければ、相手を深く理解し、本心から動かすことはできません。

「会社の経営ほどシンプルなものはない」とし、余計なことを考えず、一つひとつ抜かりなく実践する行動力さえあれば必ず成功するとします。シンプル・イズ・ベストです。

若い頃はビール党でしたが、仕事への影響を考え、45才で飲酒はキッパリ止めたそうです。タバコも吸いません。毎朝5時に起きて1時間以上、自宅の敷地内を早歩きしたり、トレーニングマシーンで運動をしています。現在78才ですが、創業50年を契機に次の50年の事業計画を立てたそうです。ということは、128才までは現役で頑張るということでしょうか。

第299回 書評『イベルメクチン』大村智編著

「第一章 古くて新しいイベルメクチン物語」は、イベルメクチンを開発された大村智先生が書かれています。第二章以下は、7名のドクター等により、新型コロナに対するイベルメクチンの有効性について、学術論文、臨床結果を基に記述されています。

大村智先生は、イベルメクチンがオンコセルカ症(河川盲目症)、リンパ系フィラリア症等の撲滅に多大な貢献をしたとして、2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。アフリカではオンカセルカ症対策として1年に1回、配られています。1億2千万人が恩恵を受けています。イベルメクチンの基となったエバーメクチンは、大村先生が1974年に静岡県伊東市川奈にゴルフに行った際に、ゴルフ場近くで採取した土壌の中にあった放線菌が産出する化合物だったそうです。ノーベル賞受賞を記念をしての論文では、論文の一番終わりの部分で「このイベルメクチンは、抗がん作用、あるいは抗ウィルス作用、特にフラビウィルスの増殖を阻害する」報告があると紹介されています。

九州大学医学部は、イベルメクチンが肝内胆管癌の治療薬になりうることを発見しています。肝内胆管癌といえば、私が39才のときに九大病院第二外科で告げられた病名です。2週間後に腫瘍の場所が移動して、胆管結石の誤りであることが判り、命拾いしました。今年の1月28日のニュースでも、イベルメクチンを投与したマウスの実験で、ガン細胞の増殖が3分の1に抑制されたと報道されていました。

コロナの高熱で苦しんでいる知人に渡したら、翌日にはスッカリ熱が下がり、ビックリしていました。ワクチンの副反応、ワクチン未接種へのシェディング(伝播)にも効果があるようです。自分自身も服用していますが、身体そのものが改善してきたという実感があります。大村智先生に感謝!です。

第296回 書評『よみがえるロシア帝国』

副島隆彦さんと佐藤勝さんの対談本です。佐藤勝さんは元外務省主任分析官で対ロシア外交の最前線で活躍し、2002年、鈴木宗男議員の外務省をめぐる疑惑事件の国策捜査で逮捕され、512日勾留され、2009年に最高裁で有罪が確定していますが、ロシアの専門家です。

いきなり安部元首相の殺害について、アメリカ専門家の副島さんは、SPのなかのアメリカのCIAの息がかかった人物がやったと私見を述べています。ある政治家は、SPは必ず東京から2人ついてくるところが、今回は1人だけだったと不思議がっていたとのことです。

佐藤さんによれば、ロシアがウクライナに侵攻した理由は、①NATOの東方拡大への反対、ウクライナ国内のロシア人の権利の保全、ウクライナのネオナチ一掃の3つであるとします。

副島さんは、戦争の初日から、一瞬のうちに集団洗脳が起きたことを危惧していました。「ロシアが悪い。プーチンがたくさんの女、子どもを殺している」という報道一色で、日本国民がまとめて洗脳されたのを、我々はまざまざと目撃した。これは心理作戦戦争「サイコロジカル・オペーレーション・ウォー」(通称サイオプ)であり、ロンドンのタビストック心理戦争研究所で研究されてきたものであり、コロナウィルスとワクチンにしても同様であるとの認識です。

今年の6月に出版された、フランス人のエマニュエル・トッドの『第三次世界大戦はもう始まっている』を紹介しています。トッドは「ウクライナ戦争の原因と責任は、アメリカとNATOにある」と言い切っています。佐藤さんによれば、これはヨーロッパの知識人の標準的な考えだそうです。

6月のドイツでのG7で、鍛えられた上半身を披露したプーチンを各首脳が揶揄したのを受けて、プーチンは「1人の人間のなかで精神も体も、すべてが調和のとれた形で発達するべきだ。調和するためには、酒を飲みすぎる悪い習慣をやめて、運動して、スポーツに励む必要がある」と返しており、副島さんはプーチンを「哲学王」としています。

しかし、佐藤さんは「ロシアが勝つのは確信しているが、プーチンがやっていることは間違っている」と逆の立場をとっています。

第292回 書評『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)』

著者はユベール・ジョリー、フランス人です。2012年、倒産寸前に追い込まれていた米国の家電量販店ベストバイのCEO(最高経営責任者)に就任し、会長を含む8年の在任期間に同社を再生し、「最も働きがいのある会社」のとして業界トップ企業に成長させています。

題名の「ハート・オブ・ビジネス」とは、ビジネスの核心です。「人との深いつながり」こそがビジネスの核心とします。経済学者のミルトン・フリードマンによる「ビジネスのパーパスはお金を稼ぐこと」とは真逆です。経済アナリストの藤原直哉さんは学生時代に東大教授がフリードマンの経済を批判していたそうですが、令和となってまさにその通りになってきたと言います。

企業には決定的に重要な3つの要素があるとして、それは人、ビジネス、お金だとし、これらは相互につながっている。1つめの要素「人」が優れ、従業員の育成や充実度が高水準だと、2つめの要素「ビジネス」において、顧客が忠実に繰り返し製品やサービスを購入してくれるという結果につながり、3つめの「財務」、お金を稼ぐことになる。人→ビジネス→財務の因果関係になります。著者は、従業員こそハート・オブ・ビジネスと見なし、中心に据えています。それによってベストバイを再生させています。

人間味のある関係をハート・オブ・ビジネスに位置付けるということは、全ての人を大切に扱うということです。ビジネスはゼロサムゲームではなく、善をなすことと成功すること、どちらも可能であるとします。逆に、金銭的インセンティブは時代遅れ、的外れであり、業績給などは挑戦を、学びと成長の機会と捉えず、ミスや欠点を隠そうとするため、有害であるとまで言います。

著者は63才で、現在はハーバード・ビジネス・スクール上級講師として活躍しています。新たな時代の到来を感じさせる本です。

第288回 書評『AI監獄 ウイグル』

著者は、米国人で調査報道ジャーナリストのジェフリー・ケインです。日本語訳は2022年1月の出版です。2017年8月から2020年9月まで、168人のウイグル人にインタビュー取材しています。主人公といえる「メイセム」(仮名)には2018年10月から2021年2月までに14回インタビューをしたそうです。

まさにホットな直近のウイグルの状況をレポートしています。2013年にウイグルに行ったときには、急に銃を携帯した兵隊がバスの中に乗り込んでき、異様な雰囲気でした。シルクロードツアーの一環でしたが、顔も宗教も違い、まさに中国であって中国でない感じでした。新疆(しんきょう)ウイグル自治区の「新疆」とは「新たな征服地」という意味です。

1100万人のウイグル人のうち、強制収容所に収容された人数は2017年までに150万人に膨れ上がっています。メイセムは、一旦は収容所に入れられ、再教育を受けます。2013年、社会科学の学位を取得して北京の大学を卒業し、トルコの大学院に進学します。その学歴自体が問題とされます。なんとか奇跡的に解放され、インタビューを受けます。

中国テクノロジーの国家的象徴であるファーウェイ(中国名の「華為」は中国のための意)は、2010年から2015年にかけて新疆市場で存在感を強めていきます。ゾッとしたのが顔認証の技術です。2010年頃には、ほとんど個別認識できなかったコンピュータが、犯罪者用に急速に開発した結果、今、私たちがスマホで顔認証できるサービスに繋がっています。最近はマスクをしていても認証します。

AIを使って、個人のビッグデータを作成し、徹底的な監視体制を中国はウイグル地区に構築していきます。まさにジョージ・オーウェルの『一九八四年』の世界です。メイセムはこの本を読んで、英国の作家が70年前に自分の経験を予言するなんてと、ビックリしています。まさにリアル『一九八四年』です。隣の国の知らない土地の話では済ませられません。AI を悪意で使用することの危険性を知らされます。

第282回 書評『財務省、偽りの代償 国家財政は破綻しない』

元財務省官僚の高橋洋一さんの新刊です。著者は財務省では珍しく東京大学理学部数学科の出身です。そのため理系的な思考で語られます。YouTubeで国家の貸借対照表(BSバランスシート)を最初に作ったのは自分だと仰っていたので読んでみました。

1995年に日本の政府BSを作り、それを見た各国政府から、作り方を教えてくれと要請され、他の先進国はその2年後から作っているそうです。高橋さんの『理系思考入門』によれば、政府が財務書類として発表している会計には、①一般会計、②一般会計+特別会計、③連結会計(日銀を除く)の3種類があります。

一般会計とは、社会保障、地方交付税、公共事業、文教、防衛等に当てられるものです。特別会計には、年金特別会計、労働保険特別会計、外国為替資金特別会計などが含まれています。連結会計は、日本郵政、日本政策投資銀行などの特殊法人、預金保険機構などの認可法人、国際協力機構、都市再生機構などの独立行政法人、国立大学法人などが連結されています。

一般会計だけで国の財政を話しても意味がありません。会社でいえば一事業部の決算を見て会社全体の財務が語られないのと同じです。損益計算書(PL)はごまかし易いですが、BSはごまかしが効きません。財務状況を把握するにはBSを見なければなりません。

日本には1,000兆円の債務があるから財務状況が厳しいというのはまやかしであると言います。他国に比べて負債は多いけれども、それに見合う巨大な資産を保有しているので、大変な状態ではないそうです。その場合、資産を売却して、負債を圧縮するのが通常だそうですが、高橋さんに言わせると、法人などを売却すると天下り先がなくなってしまうので、財務省としてはそれはタブーだそうです。

また、1万円札の製造原価は国家機密なので本来言ってはならないとしながらも、20円だとバラしています。国債を発行して日銀に買わせていますが、日銀は一万円札を刷るたびに9980円儲かる仕組みとなっているそうです。

第281回 書評『ハリウッド映画の正体』

副島隆彦先生が監修、西森マリーさん著者の『カバールの民衆「洗脳」装置としてのハリウッド映画の正体』です。毎年、150本ほどの映画を観ますが、最近のハリウッド映画の質の低下というか、観終わったあとの気分の悪さを感じていました。その正体をハッキリと示してくれました。

監修の副島先生は「ハリウッド映画をエンタメとしてしか見てこなかった人たちは、ことの真相はどうだったのかを、この本と共に考えることで自分の脳を訓練しなさい」と冒頭に記しています。

ペンタゴンもCIAもハリウッドにオフィスを構えて、メジャーな映画制作会社と常に連絡を取り、「国防のため」という大義名分のもと、米軍やCIAをネガティブに描く脚本を握りつぶしています。CIAの意向に沿わない脚本は、構想の段階で潰され、CIAの承諾を受けた脚本しか映画化に至らないそうです。

FBIも同様に、ハリウッドに広報局のオフィスを構え、映画関係者に積極的に働きかけています。また、FBIはあらゆる議員、政治家、判事、検事、財界人、有名人をスパイしており、自分たちが弱みを握った人物のみの出世を許しています。弱みがないと、高い地位についたときに脅しが効かないからだそうです。

映画産業は、人々の心や文化に最も大きな影響を与えるものとして、例えばチャップリンの影響力を恐れ、ホテルの部屋に盗聴器を仕掛けていたことがMI5の文書に記されています。FBIはマリリン・モンローを監視、盗聴し、JFKと弟のロバート・ケネディの両方と関係を持っていた証拠をつかんでいました。

これらはほんの一例です。いわゆる映画史上の名画といわれるものも、不都合な史実からいかに注意を逸らさせるものであったかを、膨大な映画を例にして述べています。本当に油断もスキもあったものではありません。テレビと同様に、うっかり見ていると洗脳されてしまいます。

馬渕睦夫『日本を蝕む 新・共産主義』 第277回

元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫さんの新刊です。ウクライナ情勢を見聞する過程で、馬渕さんの存在を知りました。1946年京都府生まれで、京都大学法学部3年在学中に外部公務員上級試験に合格し、1968年に外務省に入省しています。2011年3月に65才で定年退職し、2012年から精力的に著作、講演活動を行っておられます。現在76才です。

「新共産主義」といってもピンときません。副題は「ポリティカル・コレクトネスの欺瞞を見破る精神再武装」です。本の帯には「ポリティカル・コレクトネスと共産主義、このふたつは同じコインの表裏。新自由主義というのも実は共産主義の裏返し」とあります。

ウィキペディアによれば、ポリティカル・コレクトネスとは「社会の特定のグループのメンバーに 不快感や不利益を与えないように意図された言語、政策、対策を表す言葉である」とあります。マイノリティの権利を守るということで、一見、とてもよさそうですが、馬淵さんによるとディープステート(隠れた支配層 DS )の支配戦略となります。マイノリティを使って、他国を支配するのはDSの常套手段だそうです。

共産主義はソ連が崩壊して、世界から消えたような印象があります。共産主義はマルクスが考え出したものとなっていますが、そもそもマルクスの研究を支援したのがユダヤ系大富豪ロスチャイルド(DS)でした。ソ連崩壊の教訓は「今を否定して未来の理想社会を語る言説をうかつに信用してはならない」と馬淵さんは強調し、2022年の今、再認識する必要があるとします。「社会主義・マルクス主義」は「共産主義思想の左傾化したリベラル勢力」となっています。新自由主義、グローバリズムこそが新共産主義から出たものであり、SDGsもその一環であるとしています。この新共産主義とポリティカル・コレクトネスは裏表一体であり、日本そして世界を分断させるためのDSの戦略であると警鐘します。

ウクライナ情勢については10年前から詳しくレポートしています。メディア報道とは一線を画すというより、真逆のことをウクライナに在住して大使としての経験を踏まえての解説ですので、とても説得力があります。

書評『生涯弁護人』弘中惇一郎 第274回

弘中惇一郎弁護士の『生涯弁護人 事件ファイル①』『同②』です。2冊の表紙に載っている写真を見ても、世間では極悪人とされている人たちです。元厚労省官僚の村木厚子氏、野村沙知代さんなどは意味合いが違いますが、いずれも弁護を引き受けた弘中弁護士の事件ファイルとして、事件の概要、公判の内容が詳しく書かれています。

一読すると、いかに自分自身がマスコミの報道により偏った見方をしていたかを思い知らされます。素人考え的には、どうして犯罪者の肩を持つのかとも思ってしまいます。弘中弁護士が弁護を引き受けるか否かの基本スタンスは、依頼人が信頼できるかどうかだそうです。

第一のポイントは、本当のことを言ってくれているかどうかです。事実を隠されたままでは弁護のしようがなく、悪いことをしたならしたで、事実を言ってくれれば弁護の方法があるそうです。第二のポイントは、弁護士の意見に依頼人が耳を傾けてくれるかどうかです。

例えば、三浦和義氏は事実を包み隠さずに話し、自身の女性関係も否定しませんでした。永年にわたる三浦氏の弁護活動において、彼にウソをつかれた記憶は一度もなく、疑ったこともないと断言しています。三浦氏は常々、弘中弁護士に「僕は酒も呑まないし、ギャンブルもやらない。美食家でもないし、着るものはジーンズ程度。そんな僕が、なんでお金のために妻殺しなんて考えるんですか」と言っていたそうですが、それはすべて事実であったと記されています。

三浦和義氏などは、明らかに有罪だろうと、この本を読むまでは思っていましたが、いかに無理筋であったかが判りました。ところが一審で有罪となります。当該裁判長は「日本中が有罪と信じているのにどうして裁判所が無罪を言い渡せるのか」と真顔で言ったとあります。結果、二審で逆転無罪となりますが、無罪となったことさえ、私はよく知りませんでした。先入観とは恐ろしいものです。

安部英医師の薬害エイズ事件においても、世間では極悪人のように言われ、私自身そう思っていましたが、全くの誤解でした。無罪判決となり、裁判所から報道陣をまくために、三浦和義氏が一肌抜いだことなどは、いかに依頼者と信頼関係で結ばれていたかが判ります。

同じ職業的専門家として、弘中弁護士の真摯な姿勢にとても感銘しました。

書評『世界は「関係」でできている』 第273回

量子力学の理論物理学者カルロ・ロヴェッリの一般読者向けの『時間は存在しない』に続く新作です。前著では「量子力学は、物理的な変数が粒状であること(粒状性)と不確定であること(不確定性)とほかとの関係に依存すること(関係性)、この三つの基本的な発見をもたらした」とし、「存在するのは、出来事と関係だけ。これが、基本的な物理学における時間のない世界」とこれまでの到達点の解説でした。

『世界は「関係」でできている』はその3年後の著書です。古い物理学が提供してきた明瞭で確固たる世界観は、実は幻であったとして、発見から100年経過しても、今だに解明できていない量子論。「堅牢だったはずの物理学的世界は、どうやら雲をいただく塔や、絢爛豪華な宮殿のように、宙に消えてしまった」とします。

「この世界が属性を持つ実体で構成されているという見方を飛び越えて、あらゆるものを関係という観点から考えるしかない」という結論になっていきます。

そして、ナーガールジュナ(龍樹)の『中論』にたどり着きます。「わたしたちがいるということの芯になる本質、理解すべき謎に包まれた究極の本質は、存在しない。わたしは、互いに連絡し合う膨大な現象が構成する総体でしかなく、それらは依存し合っている」というまさに仏教の空の思想、縁起説になってきます。このことはロヴェッリにとっては意外な発見となりました。

20世紀の物理学の最大の発見は、相対性理論と量子理論だそうです。「アインシュタインの特殊相対性理論を通して、同時性が相対的な概念であることを発見した。量子論の発見はそれよりほんの少しだけ過激で、この理論によると、あらゆる対象物のあらゆる属性が、速度のように相対的だということ」になります。

「何かを理解しようとするときに確かさを求めるのは、人間が犯す最大の過ちの一つだ」と著者は言います。これらなどは浄土真宗の「信心」に繋がっていきます。