書評『生涯弁護人』弘中惇一郎 第274回

書評

弘中惇一郎弁護士の『生涯弁護人 事件ファイル①』『同②』です。2冊の表紙に載っている写真を見ても、世間では極悪人とされている人たちです。元厚労省官僚の村木厚子氏、野村沙知代さんなどは意味合いが違いますが、いずれも弁護を引き受けた弘中弁護士の事件ファイルとして、事件の概要、公判の内容が詳しく書かれています。

一読すると、いかに自分自身がマスコミの報道により偏った見方をしていたかを思い知らされます。素人考え的には、どうして犯罪者の肩を持つのかとも思ってしまいます。弘中弁護士が弁護を引き受けるか否かの基本スタンスは、依頼人が信頼できるかどうかだそうです。

第一のポイントは、本当のことを言ってくれているかどうかです。事実を隠されたままでは弁護のしようがなく、悪いことをしたならしたで、事実を言ってくれれば弁護の方法があるそうです。第二のポイントは、弁護士の意見に依頼人が耳を傾けてくれるかどうかです。

例えば、三浦和義氏は事実を包み隠さずに話し、自身の女性関係も否定しませんでした。永年にわたる三浦氏の弁護活動において、彼にウソをつかれた記憶は一度もなく、疑ったこともないと断言しています。三浦氏は常々、弘中弁護士に「僕は酒も呑まないし、ギャンブルもやらない。美食家でもないし、着るものはジーンズ程度。そんな僕が、なんでお金のために妻殺しなんて考えるんですか」と言っていたそうですが、それはすべて事実であったと記されています。

三浦和義氏などは、明らかに有罪だろうと、この本を読むまでは思っていましたが、いかに無理筋であったかが判りました。ところが一審で有罪となります。当該裁判長は「日本中が有罪と信じているのにどうして裁判所が無罪を言い渡せるのか」と真顔で言ったとあります。結果、二審で逆転無罪となりますが、無罪となったことさえ、私はよく知りませんでした。先入観とは恐ろしいものです。

安部英医師の薬害エイズ事件においても、世間では極悪人のように言われ、私自身そう思っていましたが、全くの誤解でした。無罪判決となり、裁判所から報道陣をまくために、三浦和義氏が一肌抜いだことなどは、いかに依頼者と信頼関係で結ばれていたかが判ります。

同じ職業的専門家として、弘中弁護士の真摯な姿勢にとても感銘しました。

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